あれから240年

2007年1月4日 / その他


まずは、年賀状頂いた皆様、ありがとうございます。
「出さない宣言」しておいて何ですが、
貰っちゃうとやっぱり嬉しいです。
お互い年賀状を出さなかった皆さん、
今年中に是非どこかでお会いして、その時に年始の
挨拶をしましょう。とりあえず、2月のワンフェスまでは
模型業界松の内、って事で(ダメ?)。
では、事件収束後240年、
それに去年やり残した事なんで!
『ジェヴォーダンの獣』祭り
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前回観た時は、造形作業しながら
途中何度も中断入れてだったんで、
2時間越えを一気に観たらキツいかな、
と思ってましたが、やっぱり良いよ。
一度目よりも印象良くなったって。
ネットで検索掛けると、あまり芳しい
評判が無いんですが、既製の映画の枠や
見方で語るとイカンと思うのですよ、この映画。
どう見てもカレーなのに、実はハヤシライス。
カレーを期待すると肩すかしだけど、
ハヤシライスの味に目覚めると病み付き、みたいな。
この映画一本だけで一つのジャンルを確立しかねない。
史実に元を取ってはいるものの、いろんな要素を
ぶち込んで荒唐無稽、でも映画としては極めて王道、
衣装・セット等の美術に独特の美しさ、という点で
似ているのは『魔界転生』『ドラゴン・イン』、
どっちも大好きな映画。
キャスティングに間違いが無い点も共通
(『魔界転生』の宮本武蔵はちょっとアレな気もするが)。
出来がどうの、というより存在が凄い映画なんだけどな、個人的には。
で、以下ネタバレ含みますので、注意
(コメントもネタバレOKで)。
______________________________
続編なんてこれっぽっちも考えてない
キャラクターの使い切りっぷりが気持良い。
出て来るキャラクターほぼ全員、良い事悪い事、
やるべき仕事やりきって終わるし
(モニカ・ベルッチの仕込み扇子、カッコイイ!)。
おかげで、結構救いの無い話にもなってますが、
じゃぁそこでハッピーエンドにしてたら
良いかと言えば、決してそうじゃない。
「映画にバッドエンドやネガティブな要素を
 求めない、映画はカッコ良くて綺麗で楽しくてナンボ」
が持論の私でも、この映画の展開には納得してます。
トマ・タブシェ(若公爵)も、
そもそもジェヴォーダンの獣事件の
背景をあの時代性に求める脚本では、
ああならざるをえないはず。
さて、ここから蘊蓄。
まずは、主人公・グレゴワール・ド・フロンサック。
博物学者にして医学の心得もあり、
格闘・戦闘能力も抜群、絵も上手い、とまさに典型的な
万能主人公ですが、モデルのような人物が実在します。
映画の年代とほぼ同じ頃のフランソワ・ルヴァイヤンがその人。
南アメリカで育ったためかインディオの
吹き矢を使いこなし、フランス王立動植物園の職に就いた後は、
アフリカを旅して旅行記を出版、また今でも評価が非常に高い
動物学書を数々製作、ヨーロッパ人として
初めて野生のキリンを仕留めた人物でもあります。
直筆のキリンの絵が残っており、まさにそのままフロンサック。
18世紀後半というのは、博物学においてフランスが
西洋文化園をリードしていた時代。
劇中、フロンサックに貴族が「ビュフォン君は元気かね」
と尋ねるシーンがありますが、ビュフォンといえばこの通りの方
著書の『博物誌』は、18世紀にフランスでもっとも
売れた本の1つで、インテリ家庭にはたいがい1セットあったとか。
当時の博物学書というのは、1セットで今でいう車1台分の
価格がザラなので、持ってるだけで金持ちの証。
ちなみに、リンネ、ルソー、日本では平賀源内が同時代人。
ニュートンが1世代前で、1世代後が進化論のダーウィン。
余談ですが、ラマルクってビュフォンの子供の
家庭教師してたそう。女の子口説くときのネタにどうぞ。
さらに余談。フランスの博物学に対する熱意は、
フランス革命後も消える事無く、その後には
ナポレオンの指揮の元、あの『エジプト誌』を生み出す事になります
以前、その『エジプト誌』実物を直接手に取って
観る機会があったんですが、あれはもう本ではなくて
完全に工芸品・美術品・盾(防御+10 素早さ-20)
でございました。スンゴいデカイし重いし。
ちょっと無理言って、鳥類画の名手と言われるバラバン描く
ワシ・タカ類の画も見せて貰いましたが、
この当時の博物画の約束に則って原寸大(だったはず)
なのでやっぱりデカイ。
ここら辺のさらなる蘊蓄は、荒俣さんの『ブックライフ自由自在』を是非。
前述のルヴァイヤンが仕留めたキリン、
死体はパリに運ばれ剥製にされたそうで、それに影響を
受けたのがラマルク。ラマルク、小ネタ多いな。
毛皮付きマスの話は、17世紀になって
スコットランド人が新大陸に移住するように
なってから、ヨーロッパに伝わったそうで、
実際あの当時結構知られた話のようです。
今のカナダに棲息する、との設定だったそうなので、
このあたりフロンサックの経歴とも矛盾がありません。
まぁ、日本の人魚のミイラのようなネタだったんでしょうね。
劇中、フロンサックがあっさりネタばらしをするのは、
そういう噂を信じないフロンサックの博物学者・
科学者としての見識と、アメリカでの経験、
そしてユーモアのセンスも持ち合わせた
主人公としてのキャラクターを表現したものかと。
劇中登場する「獣」のロボット(アニマトロニクス)が
妙に出来良いな、と思ってメイキング観たら
ジム・ヘンソンスタジオ製!スタジオにはスケクシスが! 
それだけで星1つ追加。
CGも担当しているようですが、そちらはハリウッド等の
他の1流SFXスタジオに比べると、ちょっと甘い。
ただ、ヘンソンスタジオ作品の品格というのが
なんとなく感じられ、それがこの映画の雰囲気に
よく合っているんじゃないかと。
音声に関しては、こちらが日本人だから、というのも
あるとは思いますが、吹き替えの方が良いです。
声と俳優の容姿がバッチリなんですよ。
吹き替えの後にオリジナル(フランス語)聞くと、
なんか違うんだよな~。
と、とりあえずこんな所で。
劇場に観に行かなかったんで、
パンフレット持ってないんですが、似たようなネタ
書かれてるような気がする、、、荒俣宏、鹿島茂あたりに。
参考図書 『図鑑の博物誌』(集英社)
    『大博物学時代』(工作舎)
    『ブックライフ自由自在』(集英社文庫)
             以上 荒俣宏 著
    『博物学の黄金時代』(リン・ハーバー 国書刊行会)
    『世界動物発見史』(ヘルベルト・ヴェント 平凡社)
    『世界贋作大博覧会』(吉村作治 編 ワールドフォトプレス)

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